投資戦略4 – 経済指標を別の観点から理解する
トレードだけでなく、投資全般に向けての知識を身に付ける事がこれからの時代を生き抜くためには必須です。
この講座は、トレードに使える投資の知識や、トレードと投資のメリットを合わせて使うための知識構築を目的としています。
今日の講座は経済指標について。FXなどの経済指標とは違う観点でご説明します。
まずはGDPについて。
名目GDPと実質GDP
名目GDPは物価変動を含めた国内総生産と呼ばれる国内で生み出された財・サービスの付加価値の総額。物価変動を除いたものを実質GDPと言います。
重要な点は、実質GDPが経済成長率において重要視されているという点です。国の経済成長率を見るためには実質GDPを使用します。これによって、その国へ投資すべきかどうかの判断は出来ます。なぜなら、経済成長率が乏しい国に投資しようとは思わないですよね?他の方も同じです。
しかし、名目GDPが存在する意味もあります。それは、「物価の変動を含む」という点です。
トレードや投資において最も重要なのが金利です。
その金利はどうなったら変動するのでしょうか?インフレが懸念される時に、利上げされる事が多いのです。またはデフレが強くなると利下げされる事が多い。
よって、物価の変動が利上げ・利下げの重要なファクターになります。
では、名目GDPと実質GDPを使って「物価の変動」を知る事は出来ないのでしょうか。
GDPデフレーター
この計算の際に用いる物価指数をGDPデフレーターと言います。
※また、GDPを用いて経済がどれほど伸びているかも計算する事が出来ます。これをGDP成長率と言います。計算式はここでは書きません。
GDPデフレーターは、名目GDP÷実質GDP。
つまり、その計算から割り出されるのは「物価の変動」です。
- 実質GDPはある年を基準として(例えば5年おきに基準年とする)、物価を据え置きにして計算し直した国内の売り上げ、のようなものです。
- 名目GDPは物価がインフレによって値上がりしていてもそのまま計算した売り上げ。
これがGDPデフレーター。
そして、似たもので覚えておくべきなのが「PCEデフレーター」。
PCEデフレーター
PCEデフレーターはアメリカのFRBが重要視しているために、出てくる用語です。
PCE(個人消費支出)という経済指標が発表されていて、この名目PCE÷実質PCEがPCEデフレーター。どちらにせよ、物価の変動=インフレかどうかを考えるための指標です。
インフレが進み過ぎると、これを抑えるために政策金利を上げたりもするので、インフレについて考えなくてはならなくなります。
GDPデフレーターとPCEデフレーターで出来る事
値動きは先読みで動くので、
ドル買い ← インフレ? ← 利上げ?
このような先読みの値動きに乗るために、実際に利上げが行われた後ではなくその懸念でトレーダーが動きます。だからそのための指標として、PCEデフレーターやGDPデフレーター、消費者物価指数(CPI)などチェックするという事。
※用語解説より
ここまで、トレードや投資のためにやっている方がどれほどいるのかは疑問ですが(笑)、インフレ懸念の材料としての指標です。
と、教科書のような事を書きましたが(笑)、今日は経済の勉強です。
私大野はファイナンシャルプランナーの資格も取得しているので、その知識から投資やトレードに役立つ情報を共有しておきます。
これまでは、チャートが全て。経済の事など知る必要もない、というストイックなトレードテクニックがご好評を頂いていたのですが、そろそろ、経済の話もしておこうと思います。
少し、ややこしいですがお役に立てるはずです。
(ちなみに)日本は世界で第3位の名目GDPです。
1位はアメリカ、2位が中国、3位が日本、4位はドイツ、5位はフランスかインドかイギリスで競っています。
※調べたところ、名目GDPだけでなく実質GDPも3位のようです。※ただGDPは3位でも、国民の数で割って一人当たりのGDPを出すと、20位台と結構低い。この点をよく指摘されますが(笑)、これは人口も関係しますのであまり気にしなくても良いのかも知れません。また、GDPの成長率は当然ながら新興国の方がよく伸びます。追い付かれないようにこれからも伸ばせたら良いのですがね。
景気動向指数とは?
景気動向指数は、景気に敏感に反応する経済指標の内、各系列ごとに3か月前の数値と比べて改善した割合を表しています。
※重要なものを太字にしました
先行系列
・最終需要財在庫率指数(逆サイクル)
・鉱⼯業⽣産財在庫率指数(逆サイクル)
・新規求⼈数(除学卒)
・実質機械受注(製造業)
・新設住宅着⼯床⾯積
・消費者態度指数
・⽇経商品指数(42種総合)
・マネーストック(M2)(前年同⽉⽐)
・東証株価指数
・投資環境指数(製造業)
・中⼩企業売上⾒通しD.I.
一致系列
・⽣産指数(鉱⼯業)
・鉱⼯業⽣産財出荷指数
・耐久消費財出荷指数
・所定外労働時間指数
・投資財出荷指数(除輸送機械)
・商業販売額(⼩売業)
・商業販売額(卸売業)
・営業利益
・有効求⼈倍率(除学卒)
遅行系列
・第3次産業活動指数(対事業所サービス業)
・常⽤雇⽤指数
・実質法⼈企業設備投資
・家計消費⽀出(全国勤労者世帯、名⽬)
・法⼈税収⼊
・完全失業率(逆サイクル)
・きまって⽀給する給与(製造業、名⽬)
・消費者物価指数(⽣鮮⾷品を除く総合)
・最終需要財在庫指数
という事で、面白いのが、先行系列に東証株価指数が入っている事。つまり、TOPIXです。
マネーストックは(金融期間や政府を除く)国民や企業が保有するお金の量を表していますので、お金が増えているかどうかです。
これらを含めて先行系列と呼び、先行系列が伸びていれば後から景気が付いてくるという予測になります。
一致系列は現在、景気は伸びているのかどうか。遅行系列は後から付いてくる指数です。
ついでに覚えておきたい!
新規失業保険申請件数。これは米国の指標です。米国の動向は我が国の株価指数や為替にも影響しますので、注目に値します。週ごとにまとめた失業保険の申請件数を発表しているような指標で、景気の動向が少し見えてきます。毎月最初の金曜日にある「雇用統計」の先行指数という捉え方も出来ます。
景気動向指数を見ておこう!
景気動向指数で景気を判断するためにはそれぞれの意味を多少は理解しておく事が必要です。景気から今後の株価指数や為替の値動き。その長期展望が少し見えて来るかも?後で分解してご説明します。失業率や消費者物価指数など。
先行系列が伸びていれば後から景気が付いてくる、一致系列は景気の現状を表す、遅行系列は景気の再確認というわけですね。
ではグラフにしましたので見てみましょう。
景気動向CIグラフとDIグラフ
2020年までの景気動向CIグラフです。
今は先行系列(先行指数)が伸びて、一致指数も伸びて来ています。
2020年末、先行指数が伸びていますね。これにはTOPIXの上げが含まれていますが、それ以外に様々な先行系列を合わせての総合結果。
2009年の再来となれば、これから景気が良くなるという可能性はあるわけです。
景気動向DIと景気動向CIがあります。DIを含めたこのグラフは分かりにくいので、上のCIをイメージしておきましょう!
なお、CIは景気の波を表し、DIはその度合い(山と谷の深さ)を表すと言います。これはFXのオシレーターにそっくりですね(笑)。
消費者物価指数とは?
消費者物価指数は家計の支出の中で重要な商品、サービスを選定して総務省が発表しています。
生鮮食品を除いたコアCPIを利用する事が多いですね。
さて、この消費者物価指数は
2015年を100として考えた時に2020年末時点でコアCPIが101.5(年平均値)。2020年12月では101.1(月単位)。
つまり、物価は上昇しています。
消費者物価指数は遅行系列にあたるので、景気が良くなれば、いずれ物価も上昇するというわけです。
主に、生鮮食品を除いたコアCPI。そして、それらも含んだCPIがあります。※生鮮食品を除く理由は、値段が変動しやすいから。
消費者物価指数が高すぎると、インフレが懸念されます。 →金利が上昇しやすくなります。※用語解説より
完全失業率と有効求人倍率
あとは失業率と求人倍率あたりを覚えておけば大丈夫でしょう。
完全失業率は総務省、有効求人倍率は厚生労働省が毎月公表しています。
- 完全失業率は完全失業者÷労働力人口×100
- 有効求人倍率は月間有効求人数÷月間有効求職者数×100
というのが計算式です。
有効求人倍率は一致系列に、完全失業率は遅行系列に入っています。
先行・一致・遅行という意味は求人を考えると分かやすいです。先行系列では新規求人倍率ですから。
とにかくこの景気動向をチェックしておきましょう!
景気が良くなり、物価が上昇すれば、金利が上昇するのが基本的な流れとなります。
そして、金利が上昇すれば円に人気が集まります。つまり、基本的には円高になる。
その前にまずは、先行指数となる東証株価指数やマネーストックが景気向上の参考になります。
こういった原則を覚えておくというのも重要で
FXの経済指標は雇用統計で数値が良ければ上がる、悪ければ下がるといった程度の短期的な話です。
しかし、経済全体の景気と物価や、金利と為替を考えれば長期的な流れを考える参考になります。
マーケットの変動要因
簡単に概要をまとめておきます。
1.景気と金利
景気が良くなる→物が売れて、資金ニーズが高まる→金利が上がる
景気が悪くなる→物が売れず、資金ニーズが低下する→金利が下がる
※行きすぎた場合、日銀が金融緩和をするか、金融引き締めをするかに繋がる。
2.金利が上がる・下がる
金利が上がる→円の魅力が上昇する→円が買われる→円高になる
・預金や債券にお金が流れる→株価が下がる
・新発の債券の利回りが上がる→既存の債券の価格が下がる
金利が下がる→円の魅力が下がり、円安になる
3.金利と債券
※新しい債券に流れ、既存の債券の魅力が下がる。
4.物価と為替
物価上昇→円安になる
物価下落→円高になる
※「物の価値が上がる」という事は同じ金額で買える数や量が減るという事。つまり通貨の価値が下がる。
この物価と金利と、為替と景気の絡みは非常に難しいです。
単純には行かないので、一般論として基本原則というように考えて下さい。
最終的には長期で見たら原則通りになったとしても、短期的には必ずしも当てはまりません。
5.金融政策
- 売りオペ→金融引き締め
- 買いオペ→金融緩和
※金融緩和→流通するお金の量が増える。お金が増えれば金利は下がる。
※金融引き締めで流通するお金の量が減る→金利は上がる。
買いオペは国が国債を買い入れるという事。
預金準備率操作
- 引き上げ→金融引き締め
- 引き下げ→金融緩和
民間の銀行から預かっているお金の量を増やすのが引き上げ。減らして国内に流通させるのが引き下げ。
重要な点
- 金利が上がる→通貨価値上昇、債券低下、株価下落
- 金利が下がる→通貨価値低下、債券上昇、株価上昇
金利が上がると通貨が買われて、株が下落する。
重要な点はこれだけです。
しかし、それを見越しての売買が行われるのが相場です。つまり、金利が上がる要因になる指標(例えば物価が上昇する→利上げするか?)に起因されて先に上昇を始めるので、値が動きだす時に乗りたい方は物価の変動についても目を見張る必要があります。
そうでなくて、金利が実際に上昇してから反応しても別に遅すぎるわけではないので、金利の値動きを見たい!という場合はチャートを見ましょう。
金利は短期金利と長期金利があり、主に2年債利回りと10年債利回りを見るトレーダーが多いでしょう。特に「米国の10年債利回り」の反応を見ていれば中長期の流れは分かります。
PCEデフレーターやGDPデフレーター、消費者物価指数を見て今後の金利の動向を考えるのはかなり上級者向けではないかと私は考えます。実際に利上げするかどうかは政府が判断する事ですし、金利の動向は市場が決めます。物価指数と実際の金利の動向を感覚的に違和感なく捉えられるのであればそれも可能でしょうが、政府の動向(利上げ時期など)が掴めないのなら、実際の金利を見るのが良いと思いますよ。
米国債利回りと日本国債利回りの比較とドル円の変化については
Let’sGoldに比較検討した図が載っていましたのでご覧下さい。
6.マネーストック
基本的にM2を使う。
M2 現金通貨+国内銀行等に預けられた預金 ※現金通貨=銀行券発行高+貨幣流通高
簡単に言えばこういう事です。そして、お金の流通量なので、マネーストックも金利に影響するでしょう。
マネーストックは、お金の流通量を表す指標。国内に出回っているお金の量が多い = お金の価値は下がる(需要と供給の関係から) → インフレになりやすい ※程度によりますが、この図式が一番簡単な覚え方でしょう。 ※用語解説より
少しややこしい話でした(笑)。全て覚える必要はありません。
トレードや投資に必要な部分だけを覚えましょう。それは「金利」です。金利が上がるか下がるか。それ以外は、金利の動向を知るための材料に過ぎないと思って頂いて大丈夫です。つまり、分からなければ金利の変化を実際に見てから売買すればOK。
以上で、経済指標の話は終わります。
投資戦略5は
「リスク管理手法(そのリスクを負う価値はあるか?)」について。